今回は、統計学においてデータの「ばらつき」を数値化するための最も重要な指標である「分散(ぶんさん)」について解説します。
統計検定2級の学習を進める上で、平均値と同じくらい頻繁に登場するのがこの分散です。分散の概念を正しく理解することは、この後に続く標準偏差、共分散、さらには確率変数の分散や統計的推定を学ぶための必須の土台となります。
分散を一言でいうと
分散とは、データや確率変数が「平均値からどれくらい離れてばらついているか」を、差の2乗の平均によって表した数値のことです。
データ全体のばらつきが大きいほど分散の値は大きくなり、すべてのデータが平均値と完全に一致している(ばらつきがない)とき、分散は0になります。
分散の計算公式(データの分散)
n 個のデータ X_1, X_2, \dots, X_n があり、その平均値を \bar{X} とします。このとき、データの分散(標本分散) S^2 は以下の公式で計算されます。
S^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n} (X_i - \bar{X})^2 = \frac{(X_1 - \bar{X})^2 + (X_2 - \bar{X})^2 + \dots + (X_n - \bar{X})^2}{n}数式を言葉で分解すると、以下の3つのステップで計算を行っていることが分かります。
- 偏差(へんさ)を求める: 各データから平均値を引き算します(X_i - \bar{X})。
- 2乗する: 偏差をそのまま合計するとプラスとマイナスが打ち消し合って常に0になってしまうため、すべて2乗してプラスの数値に変換します((X_i - \bar{X})^2)。
- 平均をとる: 2乗した偏差の合計を、データの個数 n で割り算します。
なぜ偏差を2乗するのか?
分散の公式では、平均値からのズレ(偏差)をわざわざ「2乗」してから合計しています。なぜ単純に足し算をしたり、他の方法を使ったりしないのか、そこには統計学上の明確な2つの理由があります。
理由1:そのまま足すと「プラス」と「マイナス」で打ち消し合ってゼロになるため
平均値とは、データ全体のちょうど「重心」となる値です。そのため、平均値より大きいデータのズレ(プラスの偏差)と、平均値より小さいデータのズレ(マイナスの偏差)をそのまま全て足し合わせると、データのばらつき具合に関わらず、合計値は必ず「0」になってしまいます。
これではばらつきを正しく数値化できないため、マイナスの符号を強制的にプラスに変換して、純粋な「ズレの大きさ」を合計する必要があります。そのために最も都合が良い操作が「2乗する」ということになります。
理由2:絶対値よりも「数式としての扱い(微分など)」が圧倒的に楽になるため
マイナスをプラスに変換する方法としては、2乗する以外にも「絶対値(プラスマイナスを無視した値)」を取るという方法も考えられます。実際に、絶対値の平均をとる「平均偏差」という指標も統計学には存在します。
しかし、絶対値のついた記号は数学的に「途中で折れ曲がったグラフ」になるため、微分(最小値を求める計算など)が非常にしにくいという大きなデメリットがあります。
一方で、2乗した数式は「滑らかな放物線のグラフ」になります。これにより、この後に学ぶ「最小二乗法」や推測統計学の複雑な数式展開において、微分などの高度な数学操作が圧倒的に行いやすくなります。そのため、近代統計学では絶対値ではなく「2乗」を標準として採用しています。
分散のもうひとつの公式(2乗の平均マイナス平均の2乗)
分散の計算には、定義通りに計算する公式のほかに、実際の試験計算で非常に重宝する「変形公式」が存在します。統計検定2級ではどちらの公式も頻繁に使用されます。
S^2 = \overline{X^2} - (\bar{X})^2これは、統計学において「分散 =(データの2乗の平均値)-(データの平均値の2乗)」として広く知られている性質です。データの値が整数の場合など、平均値が小数になって定義通りの計算が面倒なときには、この変形公式を使うことで計算時間を大幅に短縮できます。
「データ分散」と「確率変数の分散」の違いを表で整理
統計検定2級では、手元にあるデータの集計(記述統計)だけでなく、サイコロの目のように確率的に変化する値(推測統計・確率変数)の分散も扱います。それぞれの違いを表にまとめました。
| 対象 | 分散の記号 | 計算の考え方 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| データの分散 (記述統計) | S^2 または s^2 | 実際のデータの偏差平方和を、データの個数 n(または n-1)で割ります。 | 手元にある具体的な数値データからばらつきを直接計算します。 |
| 確率変数の分散 (確率論) | V[X] または \sigma^2 | 確率変数 X の期待値 E[X] を基準とし、各値の偏差2乗に確率を掛けて合計します。 | 理論上のばらつきを表します。公式 V[X] = E[X^2] - (E[X])^2 が成り立ちます。 |
理解を深める例題(2つの公式の比較)
実際に簡単なデータを用いて、定義通りの公式と変形公式(2乗の平均マイナス平均の2乗)のどちらを使っても同じ分散が導き出せることを確認します。
例題:問題
ある小テストを実施したところ、4人の得点がそれぞれ「2点、4点、6点、8点」でした。このデータの分散を求めてください。
例題:解答・解説
まず、基本となるデータの平均値を計算します。
\bar{X} = \frac{2 + 4 + 6 + 8}{4} = \frac{20}{4} = 5 \text{点}【解法1:定義通りの公式から計算】
各データの値から平均値「5」を引き算し、それを2乗したものの平均を求めます。 \begin{aligned} S^2 &= \frac{(2-5)^2 + (4-5)^2 + (6-5)^2 + (8-5)^2}{4} \\ &= \frac{(-3)^2 + (-1)^2 + 1^2 + 3^2}{4} \\ &= \frac{9 + 1 + 1 + 9}{4} = \frac{20}{4} = 5 \end{aligned}
【解法2:変形公式(2乗の平均-平均の2乗)から計算】
まず、各データを2乗した値(4, 16, 36, 64)の平均値を求めます。
ここから、先ほど求めた平均値の2乗(5^2 = 25)を引き算します。
S^2 = 30 - 25 = 5どちらの解法を用いても、分散は 5 に一致することが確認できます。
練習問題
問題
ある確率変数 X について、X の期待値が E[X] = 3、X の2乗の期待値が E[X^2] = 13 であることが分かっています。
このとき、確率変数 X の分散 V[X] の値として正しいものを1つ選んでください。
① 2
② 4
③ 6
④ 10
解答・解説
正解:②
解説:
確率変数の分散における変形公式 V[X] = E[X^2] - (E[X])^2 を適用します。
問題文より、以下の数値が与えられています。
・E[X] = 3
・E[X^2] = 13
これらを公式に代入して計算を行います。
\begin{aligned} V[X] &= 13 - (3)^2 \\ &= 13 - 9 \\ &= 4 \end{aligned}したがって、確率変数 X の分散は 4(②) となります。
まとめ
今回は「分散」の基礎概念と公式について解説しました。
- 分散は、データや確率変数のばらつき具合を「平均からの差の2乗の平均」によって数値化した指標です。
- 分散の計算には定義通りの公式のほか、「2乗の平均 - 平均の2乗」という強力な変形公式が存在します。
- 分散は数値を2乗して計算しているため、単位が「元のデータの2乗(例:点数なら 点の2乗)」に変わっています。この単位を元に戻すために平方根を取ったものが標準偏差となります。
統計検定2級では、分散の数式そのものを変形させる問題や、実際のデータから分散を素早く計算させる問題が毎回のように出題されます。どちらの公式からもスムーズに計算を進められるよう、十分に練習を積んでおきましょう。
参考 関連用語
| 用語 | 簡易的な説明 |
|---|---|
| 偏差 | 各データの値から平均値を引き算した値(X_i - \bar{X})です。データごとのズレを表します。 |
| 不偏分散 | 標本から母集団の分散(母分散)を偏りなく推定するため、分母を n ではなく n-1 で割って計算した分散です。 |
| 標準偏差 | 分散の正の平方根(\sqrt{\text{分散}})です。単位が元のデータと一致するため、直感的にばらつきを評価しやすくなります。 |
| 期待値(線形性) | 確率変数の平均値にあたる概念です。分散の公式を展開する際の土台となる性質を持っています。 |


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