今回は、統計検定2級の離散確率分布分野において、出題率が非常に高い重要なテーマである「幾何分布(きかぶんぷ)」について解説します。
幾何分布は、「コインを投げて、初めて表が出るのは何回目か」のように、同じ実験(ベルヌーイ試行)を繰り返したときに初めて成功するまでに必要な試行回数を扱う確率分布です。統計検定2級では、確率の計算はもちろん、期待値や分散の公式、そして幾何分布が持つユニークな性質(記憶のなさ)がよく狙われます。
幾何分布を一言でいうと
幾何分布とは、成功確率が p である独立なベルヌーイ試行において、初めて成功するまでに必要な試行回数 k の確率分布のことです。
記号では \mathrm{Geo}(p) と表記されます(\mathrm{Geo} は幾何分布を意味する Geometric の頭文字です)。
実務においては、「ある機械が初めて故障するまでの期間」や「営業の電話をかけて、初めて契約が取れるまでのコール数」など、ビジネスや品質管理のリスク管理において広く応用されています。
幾何分布の確率関数(公式)
1回あたりの成功確率を p とします。このとき、試行を繰り返してちょうど k 回目に初めて成功する確率 P(X = k) は、以下の公式で計算されます。
P(X = k) = (1 - p)^{k - 1} p- k:初めて成功するまでの試行回数(1, 2, 3, \dots の整数値をとります。0回目で成功することはないため、1からスタートします)
- p:1回あたりの成功確率(0 < p < 1)
- 1 - p:1回あたりの失敗確率
数式を言葉で分解すると、非常にシンプルな構造であることが分かります。「ちょうど k 回目に初めて成功する」ということは、「k-1 回目まではずっと失敗が連続し((1-p)^{k-1})、最後の k 回目にピンポイントで成功する(p)」ということを意味しています。
幾何分布の期待値と分散の公式
幾何分布 \mathrm{Geo}(p) に従う確率変数 X の期待値 E[X] と分散 V[X] は、以下の公式で表されます。分母の p の次数が期待値と分散で異なる点に注意が必要です。
幾何分布の期待値(平均)
E[X] = \frac{1}{p}
幾何分布の分散
V[X] = \frac{1 - p}{p^2}
標準偏差
\mathrm{SD}[X] = \frac{\sqrt{1 - p}}{p}
期待値が \frac{1}{p} になるのは、直感的にも非常に納得しやすい性質を持っています。例えば、当たる確率が 20%(p = 0.2 = \frac{1}{5})のクジを引く場合、平均して何回引けば初めて当たるかを考えると、\frac{1}{0.2} = 5 回となります。このように、確率の逆数が平均的な試行回数になります。
幾何分布の最大の特徴:「無記憶性(むきおくせい)」
幾何分布には、他の離散型確率分布にはない「無記憶性(記憶のなさ)」という極めてユニークな性質があります。
これは、「すでに n 回連続で失敗しているという前提があっても、そこからさらに初めて成功するまでに必要な追加の試行回数は、過去の失敗履歴とは一切関係なく、最初からやり直すときと同じ確率分布(同じ平均回数)になる」という性質です。
例えば、表が出る確率が 50% のコインを 10 回連続で投げてすべて裏だったとします。直感的には「そろそろ次こそは表が出るだろう」と考えがちですが、コインには過去の記憶がないため、11回目に表が出る確率は依然として 50% のまま変化しません。このように、過去の経過が未来の確率に影響を与えない特徴を無記憶性と呼びます。
理解を深める例題(サイコロで1の目が出るまでの回数)
具体的な数値を用いて、幾何分布の確率計算を行います。スマホ等の画面幅に対応するため、計算式は縦に並べて展開します。
例題:問題
普通の6面体サイコロを、1の目が出るまで繰り返し投げ続けます。
(1)ちょうど 3 回目に初めて1の目が出る確率を求めてください。
(2)初めて1の目が出るまでに必要な投げる回数の期待値を求めてください。
例題:解答・解説
1の目が出る確率は p = \frac{1}{6} です。したがって、失敗確率(1以外の目が出る確率)は 1 - p = \frac{5}{6} となります。この現象は幾何分布 \mathrm{Geo}(\frac{1}{6}) に従います。
(1)の解説
ちょうど3回目に初めて1が出るということは、「1回目とはずれて、2回目とはずれて、3回目に1が出る」ということです。公式に k = 3 を代入します。
= \left(\frac{5}{6}\right)^2 \times \frac{1}{6}
= \frac{25}{36} \times \frac{1}{6}= \frac{25}{216}
したがって、ちょうど3回目に初めて1の目が出る確率は \frac{25}{216} (約 11.6%) となります。
(2)の解説
期待値の公式 E[X] = \frac{1}{p} を適用します。
= 6
したがって、初めて1の目が出るまでに必要な回数の期待値は 6回 となります。
練習問題
問題
ある成功確率が p のベルヌーイ試行において、初めて成功するまでの試行回数を表す幾何分布を考えます。この幾何分布の期待値が 4 であるとき、この確率分布の「分散」の値として正しいものを1つ選んでください。
① 3
② 4
③ 12
④ 16
解答・解説
正解:③
解説:
幾何分布の期待値と分散の公式の連立関係を利用して解く問題です。
まず、幾何分布の期待値の公式 E[X] = \frac{1}{p} より、期待値が 4 であることから成功確率 p を求めます。
\frac{1}{p} = 4p = \frac{1}{4} = 0.25
次に、求めた p = \frac{1}{4} を分散の公式 V[X] = \frac{1 - p}{p^2} に代入して計算を行います。
V[X] = \frac{1 - \frac{1}{4}}{\left(\frac{1}{4}\right)^2}= \frac{\frac{3}{4}}{\frac{1}{16}}
分数の割り算は逆数の掛け算に変換します。
= \frac{3}{4} \times 16= 3 \times 4 = 12
したがって、この幾何分布の分散は 12(③) となります。
まとめ
今回は「幾何分布」の公式と性質について解説しました。
- 幾何分布 \mathrm{Geo}(p) は、独立なベルヌーイ試行を繰り返して、初めて成功するまでの回数に関する確率分布です。
- ちょうど k 回目に初めて成功する確率は (1 - p)^{k - 1} p の公式で求められます。
- 期待値(平均回数)は \frac{1}{p}、ばらつきを示す分散は \frac{1 - p}{p^2} となります。
- 過去の失敗が未来の成功確率に一切影響を及ぼさないという「無記憶性」を持っています。
統計検定2級では、公式をそのまま適用する問題のほか、期待値の逆数関係を応用させる問題や、「無記憶性」の定義を問う文章題が非常によく選ばれます。公式の分母の次数(期待値は p、分散は p^2)を混同しないようにしっかり区別して覚えておきましょう。
参考 関連用語
| 用語 | 簡易的な説明 |
|---|---|
| ベルヌーイ試行 | 結果が「成功」か「失敗」の2通りしかなく、確率が常に一定である独立な試行です。 |
| 無記憶性(記憶のなさ) | 経過した時間や試行回数が、将来の発生確率に影響を与えないという確率分布の性質です。 |
| 二項分布 | あらかじめ決めた n 回の試行の中で「成功した回数」を数える分布です。幾何分布は回数を決めずに「初めて成功するまで」を数えるため、対比されます。 |
| 指数分布 | 幾何分布と深い関係にある連続型確率分布です。幾何分布が「試行回数(離散)」を扱うのに対し、指数分布は「次が起こるまでの時間(連続)」を扱い、同様に無記憶性を持ちます。 |

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