今回は、統計検定2級の確率分布分野において、複数の変数の関係性を扱うための重要な連続型確率分布である「2変量正規分布(にべんりょうせいきぶんぷ)」について解説します。
通常の正規分布は、身長やテストの点数など「1つの変数」のばらつきを扱うものでした。しかし、実務や試験では「身長と体重の連動性」や「数学と物理の点数の関係性」など、2つの関連するデータが同時に描く立体的な山型の分布を考えたい場面があります。その際に用いられるのが2変量正規分布です。
2変量正規分布を一言でいうと
2変量正規分布とは、2つの相関関係のある連続確率変数が同時に従う確率分布のことで、3次元の散布図上に描くと美しい「立体的な釣鐘型(富士山のような山型)」の形状をとる分布のことです。
この分布は、2つの変数それぞれの平均や分散だけでなく、2変数の間の連動性を表す「相関係数」をもパラメータ(要素)に持っている点が最大の特徴です。
通常の正規分布(1変量)との決定的な違い
2変量正規分布の理解を深めるために、これまで学んだ通常の正規分布(1変量正規分布)との違いを表と仕組みで整理します。
| 項目 | 通常の正規分布(1変量) | 2変量正規分布 |
|---|---|---|
| 扱う変数の数 | 1つ(例:X のみ) | 2つ(例:X と Y) |
| 必要なパラメータ | 2つ(平均 \mu, 分散 \sigma^2) | 5つ(各平均, 各分散, および相関係数 \rho) |
| グラフの形状 | 2次元の平面上に描かれる「左右対称の山型」 | 3次元の空間上に描かれる「立体的な釣鐘型」 |
| データの広がり方 | 平均を中心に、左右1次元に広がります。 | 上から見下ろすと、平均を中心に「楕円形」に広がります。 |
最大の違いは、「2つの変数がどれくらい連動しているか(相関係数 \rho)」が分布そのものの形状を決定するという点です。
もし2つの変数に相関がある場合、3次元の山を上から見下ろすと、データは綺麗な「斜めに傾いた楕円形」の広がりを見せます。相関が強くなるほど楕円は細長くなり、完全に無相関(\rho = 0)であれば、上から見た形状は綺麗な「真円(円形)」になります。
2変量正規分布が持つ4つの重要性質
統計検定2級の文章題や正誤判定問題では、2変量正規分布が持つ以下の数学的な性質が非常によく狙われます。計算公式そのものよりも、これらの性質を言葉として正確に理解しておくことが得点に直結します。
- 周辺分布はどちらも通常の正規分布になる: 2変量正規分布に従う X と Y について、片方の変数だけに注目した分布(周辺分布)を考えると、X は N(\mu_X, \sigma_X^2)、Y は N(\mu_Y, \sigma_Y^2) という通常の正規分布にそれぞれ従います。
- 条件付き分布も正規分布になる: 「X の値が x であると確定したとき」という条件のもとでの Y の分布(条件付き分布)を考えると、それもまた別の平均と分散を持つ通常の正規分布に従います。
- 「無相関」と「独立」が完全に一致する: 2変数の共分散や相関係数が 0(無相関)であるとき、2変量正規分布においては「X と Y は互いに独立である」と言い換えることができます。通常の確率変数では「無相関だからといって独立とは限らない」という例外がありましたが、2変量正規分布の世界においては、無相関と独立は完全に同義となります。
- 任意の線形結合も正規分布になる: X と Y を足し引きしたり定数倍したりして新しく作った変数(aX + bY)も、やはり通常の正規分布に従います(再生性)。
条件付き期待値(回帰直線)への応用公式
2変量正規分布において、事象 X = x が与えられたときの、事象 Y の条件付き期待値 E[Y|X=x] は以下の公式で表されます。これはビジネスにおける「予測(回帰直線)」のベースとなる非常に重要な数式です。
E[Y|X=x] = \mu_Y + \rho \frac{\sigma_Y}{\sigma_X} (x - \mu_X)数式を縦に分解して展開すると、以下の構造になっていることが分かります。
E[Y|X=x] - \mu_Y = \rho \frac{\sigma_Y}{\sigma_X} (x - \mu_X)これは、X が平均からどれだけズレているか(x - \mu_X)に対して、相関係数 \rho と標準偏差の比率を掛け算することで、Y の平均からのズレを予測できることを意味しています。
理解を深める例題(条件付き期待値の計算)
具体的な数値を用いて、2変量正規分布における条件付き期待値の計算を行います。スマホ等の画面幅に対応するため、計算式は縦に並べて展開します。
例題:問題
ある企業の採用試験において、筆記試験の得点 X と面接試験の得点 Y の双方が、以下のパラメータを持つ2変量正規分布に従っているとします。
・筆記試験の平均: \mu_X = 60 点、標準偏差: \sigma_X = 10 点
・面接試験の平均: \mu_Y = 50 点、標準偏差: \sigma_Y = 8 点
・2つの試験の相関係数: \rho = 0.5
いま、筆記試験の得点 X が 「80 点」 であった受験生について、その人の面接試験の得点 Y の条件付き期待値 E[Y|X=80] を求めてください。
例題:解答・解説
条件付き期待値の公式 E[Y|X=x] = \mu_Y + \rho \frac{\sigma_Y}{\sigma_X} (x - \mu_X) に、与えられた数値を代入します。
E[Y|X=80] = 50 + 0.5 \times \frac{8}{10} \times (80 - 60)カッコ内の引き算と、分数の部分を先に整理します。
= 50 + 0.5 \times 0.8 \times 20掛け算の部分を順番に計算します。
= 50 + 0.4 \times 20= 50 + 8 = 58
したがって、筆記試験が80点だった受験生の面接試験の条件付き期待値は 58点 となります。
練習問題
問題
2つの確率変数 X と Y が2変量正規分布に従っているとき、この分布に関する記述として統計学的に誤っているものを1つ選んでください。
① X と Y の相関係数が 0 であるとき、X と Y は互いに独立であると結論づけてよい
② X の値がどのような値に固定されたとしても、その条件のもとでの Y の条件付き分布は常に正規分布となる
③ 2変量正規分布の形状(広がり方)を一意に決定するためには、各変数の平均と分散の合計4つのパラメータがあれば十分である
④ X 単独の周辺分布、および Y 単独の周辺分布は、どちらも必ず通常の1変量正規分布となる
解答・解説
正解:③
解説:
2変量正規分布の定義と、通常の正規分布との違いに関する性質を識別する問題です。
① 正しい記述です。2変量正規分布の最大の特徴の1つであり、「無相関(相関係数=0)ならば独立」が例外なく成立します。
② 正しい記述です。条件付き分布 P(Y|X=x) は、どのような x に対しても、平均と分散が補正された新しい正規分布になります。
③ 誤っている記述です。 2変量正規分布の決定には、X の平均と分散、Y の平均と分散という4つのパラメータに加えて、2変数の連動性を表す「相関係数 \rho(または共分散)」を合わせた合計5つのパラメータが必須となります。
④ 正しい記述です。立体的な山を片方の軸に向かって押しつぶした周辺分布は、どちらの軸でみても美しい左右対称の1変量正規分布になります。
まとめ
今回は「2変量正規分布」の公式と性質について解説しました。
- 2変量正規分布は、相関のある2つの変数を同時に扱う連続確率分布であり、3次元の空間上で立体的な釣鐘型を形成します。
- 通常の正規分布との違いは、2変数の連動性を表す相関係数 \rho を含む合計5つのパラメータが必要になる点です。
- 2変量正規分布の世界においては、「無相関(相関係数=0)であれば、2つの変数は完全に独立である」という強力な性質が成り立ちます。
統計検定2級では、複雑な多重積分を行わせるような問題は出ません。その代わりに、今回紹介した「無相関=独立の性質」や「周辺分布・条件付き分布も正規分布になる性質」といった概念面での正誤判定問題、あるいは条件付き期待値の公式を用いた簡単な代入計算問題が定番となっています。5つのパラメータが織りなす立体のイメージと性質をしっかりとリンクさせておきましょう。
参考 関連用語
| 用語 | 簡易的な説明 |
|---|---|
| 周辺分布(しゅうへんぶんぷ) | 多変量確率分布において、特定の変数以外の変数の影響をすべて足し合わせ(または積分し)、注目する変数だけを取り出した分布です。 |
| 条件付き分布 | ある変数がある値をとることが分かっている(確定している)という前提条件のもとでの、もう一方の変数の確率分布です。 |
| 回帰直線(かいきちょくせん) | 散布図上のデータの中心を通るように引いた直線のことです。2変量正規分布の条件付き期待値の式は、この回帰直線の理論的な数式と一致します。 |
| 多変量正規分布 | 2変量正規分布をさらに3つ、4つ、あるいは n 個の変数へと拡張した確率分布です。行列とベクトルを用いて美しく数式化されます。 |



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