今回は有限母集団からの抽出と、それに伴う有限母集団修正について解説します。統計検定2級のシラバスにもしっかりと記載されている重要なテーマです。
通常の統計学の公式では、母集団が無限に大きい(無限母集団)と仮定することが多いですが、現実のデータ(例えば、社内の全従業員や、特定の学校の生徒など)は数に限りがあります。この「終わりのある母集団」を扱うのが有限母集団です。
有限母集団修正を一言でいうと
有限母集団修正とは、母集団の要素が有限であるときに、標本平均や標本総計のばらつき(分散・標準誤差)を小さく補正するための係数のことです。
母集団のサイズ(母集団の総数)を N、そこから抽出する標本の大きさを n としたとき、非復元抽出(一度引いたクジは戻さない抽出)を行う場合にこの修正が必要になります。
有限母集団における標本平均の期待値と分散
母平均 \mu、母分散 \sigma^2、総数 N の有限母集団から、サイズ n の標本を非復元抽出したときの「標本平均 \bar{X}」の期待値と分散は以下の通りです。
標本平均の期待値
E[\bar{X}] = \mu
標本平均の分散
V[\bar{X}] = \frac{\sigma^2}{n} \times \color{red}{\frac{N-n}{N-1}}
- \bar{X}:標本平均
- E[\bar{X}]:標本平均の期待値
- V[\bar{X}]:標本平均の分散
- \mu:母平均
- \sigma^2:母分散
- N:母集団の大きさ(総数)
- n:標本の大きさ(サンプルサイズ)
ここで赤字で示した \frac{N-n}{N-1} の部分を有限母集団修正(あるいは有限母集団修正係数)と呼びます。
なぜ有限母集団だと分散が小さくなるのか?(直感的理解)
通常の無限母集団における標本平均の分散は \frac{\sigma^2}{n} ですが、有限母集団から非復元抽出する場合は、それに \frac{N-n}{N-1} を掛け算するため、分散が小さくなります。
なぜ小さくなるのか、直感的な例を挙げて説明します。
例えば、全校生徒が N = 100 人の学校があります。ここから n = 99 人の標本を非復元抽出したとします。これはほぼ全員のデータを集めている状態です。
このとき、残りの1人が誰になろうとも、99人の平均値は全校生徒の真の平均値(母平均)とほぼ同じになります。つまり、何度も99人を抽出し直したとしても、標本平均はほとんど変化せず、ばらつき(分散)は限りなくゼロに近づきます。
数式で確認してみますと、n = N(全数調査)のとき、分子の N-n は 0 になるため、標本平均の分散も 0 になります。全数調査をすれば、ばらつきは発生しないという理論的な事実に一致します。
「無限母集団」と「有限母集団」の違いを表で整理
統計学を学ぶ上で、通常の仮定(無限母集団・復元抽出)と、今回の有限母集団(非復元抽出)の違いを表で整理しました。
| 対象・抽出方法 | 標本平均の期待値 E[\bar{X}] | 標本平均の分散 V[\bar{X}] | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 無限母集団(または復元抽出) | \mu | \frac{\sigma^2}{n} | 一般的な教科書の公式です。母集団が無限に大きいとみなせる場合に適用します。 |
| 有限母集団(かつ非復元抽出) | \mu | \frac{\sigma^2}{n} \left(\frac{N-n}{N-1}\right) | 母集団が小さく、引き受けたデータを戻さない場合に適用します。ばらつきが小さくなります。 |
重要なのは、期待値 E[\bar{X}] はどちらの場合でも母平均 \mu と一致する(不偏性がある)という点です。修正が必要なのは「分散(ばらつき)」の公式のみとなります。
有限母集団修正の標準誤差(SE)
分散ではなく、標準偏差(元のデータの単位)で表した「標準誤差(Standard Error)」についても、平方根をとることで同様に修正を行います。
\mathrm{SE}(\bar{X}) = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \times \sqrt{\frac{N-n}{N-1}}実務においては、母集団のサイズ N に対して標本サイズ n が十分に小さい場合(例えば \frac{n}{N} < 0.05、つまり5%未満の場合)、有限母集団修正はほぼ 1 に近づくため、修正を省略して通常の公式を使ってよいとされています。
実務上の使いどころ
有限母集団修正は、母集団がそれほど大きくなく、かつ全数調査ができない以下のような場面で活用されます。
1. 社内アンケートや組織内調査
全従業員が500人の会社で、ランダムに100人を抽出して意識調査を行う場合などです。母集団 N=500 に対して標本 n=100 は20%を占めるため、無視できない大きさです。このとき、有限母集団修正を行うことで、より精度の高い(信頼区間の狭い)推定が可能になります。
2. 特定の学校や地域コミュニティでの調査
ある学年の生徒200人のうち、40人を抽出して学習時間の調査を行う場合なども同様です。母集団の枠組みが明確に決まっている場合に効果を発揮します。
練習問題
【問題】
ある部品工場に、現在 N = 101 個の部品が保管されています。この部品の重量の母分散は \sigma^2 = 20 であることが分かっています。
この中から無作為に n = 21 個の部品を非復元抽出して標本平均 \bar{X} を計算するとき、標本平均の分散 V[\bar{X}] の値として正しいものを1つ選んでください。
① 0.8
② 1.0
③ 1.2
④ 2.0
解答・解説
正解:①
解説:
有限母集団における標本平均の分散の公式を適用します。
与えられた数値(N = 101, n = 21, \sigma^2 = 20)を代入します。
\begin{aligned} V[\bar{X}] &= \frac{20}{21} \times \frac{101 - 21}{101 - 1} \\ &= \frac{20}{21} \times \frac{80}{100} \\ &= \frac{20}{21} \times \frac{4}{5} \\ &= \frac{16}{21} \approx 0.76 \end{aligned}選択肢の中で最も近い値は 0.8(①) となります。
※もし有限母集団修正を行わずに通常の無限母集団の公式(\frac{\sigma^2}{n} = \frac{20}{21} \approx 0.95)で計算してしまった場合、ばらつきを過大に評価してしまうことになります。
まとめ
今回は「有限母集団と有限母集団修正」について解説しました。
- 有限母集団(非復元抽出)では、標本平均の期待値は母平均 \mu と一致します。
- ただし、標本平均の分散は有限母集団修正係数 \frac{N-n}{N-1} を掛けて小さく補正する必要があります。
- 標本サイズ n が母集団サイズ N に近づくほど、ばらつきはゼロに近づきます。
- サンプリング割合が5%未満のように母集団が十分に大きい場合は、通常の無限母集団の公式で代用できます。
統計検定2級では、数式の穴埋めや、簡単な計算問題として出題されることがあります。「非復元抽出のときは小さく補正する」という構造とセットで公式を覚えておくことが重要です。
参考 関連用語
| 用語 | 簡易的な説明 |
|---|---|
| 有限母集団 | 要素の数(サイズ N)が有限で、数え切ることができる母集団です。 |
| 非復元抽出 | 一度取り出した標本を母集団に戻さずに、次の標本を取り出す方法です。有限母集団修正が必要になる原因となります。 |
| 復元抽出 | 一度取り出した標本をその都度母集団に戻してから次を引く方法です。この場合は有限母集団であっても通常の(無限母集団の)公式が適用されます。 |
| 有限母集団修正(FPC) | Finite Population Correctionの略です。有限母集団からの非復元抽出において、推定量の分散を小さくするための補正係数(\frac{N-n}{N-1})を指します。 |


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