今回は、統計検定2級の確率分野で最も出題されやすく、多くの受験生が苦手意識を持ちやすい「ベイズの定理」について解説します。
ベイズの定理は、ビジネスやAI(機械学習)の分野でも非常に重視されている実用性の高い定理です。通常の確率は「原因から結果(例:病気の人が検査で陽性になる確率)」を考えますが、ベイズの定理を使うと「結果から原因(例:陽性反応が出た人が、本当に病気である確率)」を逆算できるようになります。
ベイズの定理を一言でいうと
ベイズの定理とは、新しく得られた情報(結果)をもとに、あらかじめ想定していた確率(原因の確率)を最新の状態に更新するための計算式のことです。
このように、新しい事実が判明した後に更新された確率のことを、統計学では「事後確率(じごかくりつ)」と呼びます。
ベイズの定理の公式
事象 B(結果)が起こったという条件のもとで、事象 A(原因)が起こっていたという条件付き確率(事後確率) P(A|B) を求めるベイズの定理の公式は以下の通りです。
P(A|B) = \frac{P(A) \times P(B|A)}{P(B)}- P(A|B):結果 B が出た後での、原因 A の確率(事後確率)
- P(A):結果が判明する前に、あらかじめ見積もっていた原因 A の確率(事前確率)
- P(B|A):原因 A が起きたときに、結果 B が起こる確率(尤度 / ゆうど)
- P(B):原因に関わらず、結果 B が起こるすべての確率(全確率)
公式は条件付き確率 \frac{P(A \cap B)}{P(B)} と同じ構造です。分子の「同時に起こる確率」を、乗法定理を使って P(A) \times P(B|A) に分解しています。
理解を深める例題(医療検査の陽性的中率)
ベイズの定理の重要性を、よく試験に出る「ウイルスの検査」を題材にした例題で解説します。
例題:問題
ある地域では、1,000人に1人(0.1%)の割合であるウイルスに感染している(事象 A)とします。
このウイルスを検出する検査は、以下の性能を持っています。
・本当に感染している人が受けると、99% の確率で正しく「陽性」と判定される(事象 B)
・感染していない人が受けると、1% の確率で誤って「陽性」と判定されてしまう(偽陽性)
いま、この地域からランダムに選ばれたある人が検査を受けたところ、結果が「陽性」でした。この人が本当にウイルスに感染している確率 P(A|B) を求めてください。
例題:解答・解説
計算を行うと、直感とは異なる結果が導き出されます。
分かりやすくするために、この地域に 100,000人 の住民がいると仮定して、人数で整理します。
- まず住民を感染の有無で分ける
・感染している人: 100,000 \times 0.001 = 100 人
・感染していない人: 100,000 - 100 = 99,900 人 - それぞれが検査を受けて「陽性」になる人数を計算する
・感染していて陽性: 100 \times 0.99 = 99 人
・感染していなくて陽性(誤判定): 99,900 \times 0.01 = 999 人 - 陽性が出た人(全体)のうち、本当に感染している人の割合を求める
今回、検査で「陽性」が出た人は、合計で 99 + 999 = 1,098 人います。これが新しい分母になります。
その中で、本当に感染している人は 99 人(分子)だけです。
したがって、陽性が出た人が本当に感染している確率は以下のようになります。
P(A|B) = \frac{99}{1,098} \approx 0.0902 \quad (約9\%)検査で陽性が出ても、本当に感染している確率はわずか約9%となります。もともと感染していない人の数が圧倒的に多いため、1%というわずかな誤判定の人数(999人)が、本物の陽性の人数(99人)を大きく上回ってしまうことが理由です。
「事前確率」が「事後確率」に更新されるプロセス
ベイズの定理の本質は、新しい情報(検査が陽性だったという事実)によって、確率が以下のように更新される点にあります。
| ステップ | 確率の種類 | 具体的な確率の数値 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 検査を受ける前 | 事前確率 P(A) | 0.1% | まだ情報がないため、地域全体の感染率と同じです。 |
| 検査で陽性が出た後 | 事後確率 P(A|B) | 約 9.0% (ベイズの定理で計算) | 「陽性」という新しい情報によって、感染している確率が引き上げられました。 |
データや目撃情報が得られるたびに、原因の確率を更新していくのがベイズ統計の基本的な考え方です。
練習問題
問題
ある工場では、製品を機械Xと機械Yの2台で製造しています。全体の製造割合は機械Xが 60%、機械Yが 40% です。それぞれの機械から発生する不良品の割合は、機械Xが 2%、機械Yが 5% であることが分かっています。
いま、完成した製品の中から無作為に1個を取り出して検査したところ、それが「不良品」でした。この不良品が、機械Xで製造されたものである条件付き確率として正しいものを1つ選んでください。
① 0.375
② 0.400
③ 0.600
④ 0.625
解答・解説
正解:①
解説:
取り出した製品が「機械X製である」という事象を X、「機械Y製である」という事象を Y、「不良品である」という事象を D とします。
問題文より、以下の確率が与えられています。
・製品が機械X製である確率: P(X) = 0.60
・製品が機械Y製である確率: P(Y) = 0.40
・機械Xで不良品が発生する確率: P(D|X) = 0.02
・機械Yで不良品が発生する確率: P(D|Y) = 0.05
求めたいのは、「不良品である(事象 D)」という条件のもとで、「機械X製(事象 X)」である確率、すなわち P(X|D) です。
ベイズの定理の公式に当てはめます。
P(X|D) = \frac{P(X) \times P(D|X)}{P(D)}まず、分母となる「すべての不良品が発生する確率 P(D)」を計算します。不良品は、機械Xから出るルートと、機械Yから出るルートの2通りがあります。
\begin{aligned} P(D) &= P(X \cap D) + P(Y \cap D) \\ &= P(X) \times P(D|X) + P(Y) \times P(D|Y) \\ &= 0.60 \times 0.02 + 0.40 \times 0.05 \\ &= 0.012 + 0.020 = 0.032 \end{aligned}次に、分子は「機械Xから不良品が出る確率」なので、 P(X \cap D) = 0.012 です。
これらを公式に代入します。
したがって、求める確率は 0.375(①) となります。
まとめ
今回は「ベイズの定理」について解説しました。
- ベイズの定理は、結果(検査が陽性など)から、その原因(本当に感染しているなど)を逆算するための定理です。
- 公式の分母 P(B) は、考えられるすべての原因から結果 B が導かれる確率を足し合わせたものになります。
- 新しい情報が得られることで、事前の想定(事前確率)が、より精度の高い確率(事後確率)へと更新されます。
統計検定2級では、「2つの機械から不良品が出る問題」や「医療検査の問題」が頻出します。公式を適用するだけでなく、全体の人数を仮定して表や枝分かれ図で整理する手法を身につけておくと、計算ミスを防ぐことができます。
参考 関連用語
| 用語 | 簡易的な説明 |
|---|---|
| 事前確率 | 新しい情報やデータを得る前の、あらかじめ想定していた確率(原因の確率)です。 |
| 事後確率 | 新しい情報や事実(結果)が判明した後に、ベイズの定理を用いて更新された確率です。 |
| 尤度(ゆうど) | ある原因(前提)のもとで、その結果データがどのくらい観察されやすいかを表す確率(P(B|A))です。 |
| 理由不十分の原則 | 事前確率が全く不明な場合に、すべての原因が起こる確率をいったん等確率と仮定して計算をスタートさせる原則です。 |


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