【統計検定2級】確率変数の和と差における期待値・分散

統計検定2級

今回は、統計検定2級の確率論分野において非常に重要なテーマである「確率変数の和と差」について解説します。

実務や試験では、「2つの異なる商品の売上の合計」や「A工場の生産量とB工場の生産量の差」など、複数の確率変数を足したり引いたりしたときの、新しい平均(期待値)やばらつき(分散)を求める場面が頻出します。期待値と分散では、和と差を計算する際のルールが大きく異なるため、その違いを正しく整理することが重要です。

確率変数の和と差を一言でいうと

確率変数の和と差とは、複数の確率変数を足し引きした際の新しい期待値や分散を、元の確率変数の性質から導き出すための計算ルールのことです。

期待値の計算は非常にシンプルですが、分散の計算、特に「差の分散」を求める際には、直感と異なる特有の注意点が存在します。

確率変数の和と差における「期待値」の性質

2つの確率変数 XY の和と差における期待値には、以下の公式が成り立ちます。

和の期待値

E[X + Y] = E[X] + E[Y]

差の期待値

E[X - Y] = E[X] - E[Y]

期待値の最大の特徴は、「2つの確率変数が互いに独立であっても、独立でなくても(影響を与え合っていても)常に成り立つ」という点です。期待値はそのまま足し引きができるという、非常に扱いやすい性質を持っています。

確率変数の和と差における「分散」の性質

2つの確率変数 XY互いに独立(お互いに影響を与えない)である場合、和と差における分散には以下の公式が成り立ちます。

和の分散

V[X + Y] = V[X] + V[Y]

差の分散

V[X - Y] = V[X] + V[Y]

分散の計算において、最も間違いやすいポイントは「差の分散(V[X - Y])」です。引き算の分散であっても、公式の右辺は V[X] - V[Y] ではなく、V[X] + V[Y] という足し算になります。

分散とは「ばらつきの大きさ」を表す指標です。2つの不確実な要素(ばらつくもの)を組み合わせる場合、それが足し算であっても引き算であっても、変化する要素が2つに増えるため、トータルのばらつき(不確実性)は必ず大きくなります。そのため、差の分散であっても足し算になるという直感的理解が重要です。

なぜ「差の分散」なのに足し算になるのか?の詳細

確率変数の引き算である V[X - Y] を計算するとき、公式が V[X] - V[Y] ではなく V[X] + V[Y] になる理由は、直感的なイメージと数学的な証明の2つの側面から説明が可能です。

1. 直感的な理由:マイナスの要素も「ばらつきを増やす原因」になるため

分散とは、符号(プラス・マイナス)に関係なく、平均値から「どれだけデータが散らばっているか」という広がり(リスク)の大きさを表す指標です。

例えば、日によって売上がばらつく「店舗X」と、同じく売上がばらつく「店舗Y」があるとします。この2つの店舗の売上の差(X - Y)を計算する場合を考えます。

  • 店舗Xの売上がたまたま非常に高く、店舗Yの売上がたまたま非常に低い日には、差(X - Y)はプラスの方向に大きく開きます。
  • 逆に、店舗Xの売上がたまたま非常に低く、店舗Yの売上がたまたま非常に高い日には、差(X - Y)はマイナスの方向に大きく開きます。

このように、引き算の形をとっていても、変化する不確実な要素が2つに増えたことで、結果としてのばらつきの幅(リスク)は足し算をしたときと同様に必ず拡大します。そのため、差の分散であっても元の分散同士を足し算することになります。

2. 数学的な証明:マイナスの係数が2乗されてプラスになるため

この性質は、確率変数の性質である「定数倍すると2乗になって外に出る(V[aX] = a^2 V[X])」の公式を使うことで、以下のように数学的に証明できます。

まず、X - Y という引き算を、X と「-1 倍した Y」の足し算の形に変形します。

V[X - Y] = V[X + (-1 \cdot Y)]

XY が互いに独立であるとき、和の分散の公式(そのまま分解して足し算できる性質)を適用します。

= V[X] + V[-1 \cdot Y]

ここで、後半の V[-1 \cdot Y] について、定数倍のルールを適用して -1 を分散の記号の外側に括り出します。このとき、係数は2乗の状態で外に出ます。

= V[X] + (-1)^2 \cdot V[Y]

(-1)^21 になるため、最終的な数式は以下のようになります。

= V[X] + V[Y]

以上の計算プロセスにより、引き算の分散であっても、数式上でマイナスの符号が2乗されることで、最終的には必ずプラスの足し算に変化することが証明されます。

「期待値」と「分散」の性質の違いを表で整理

確率変数が互いに独立である場合の、和と差の性質の違いを表にまとめました。

演算新しい期待値(平均)新しい分散(ばらつき) ※独立を前提
和(X + YE[X] + E[Y]V[X] + V[Y]
差(X - YE[X] - E[Y]V[X] + V[Y](足し算になる)

※もし XY が独立ではない(従属である)場合、分散の公式には「共分散」と呼ばれる2つの変数の関係性を表す項が加わりますが、基本としては上記の独立なケースを確実に押さえておく必要があります。

理解を深める例題(2つの店舗の売上データ)

具体的な数値を用いて、期待値と分散の和と差を計算します。スマホ等の画面幅に対応するため、計算式は縦に並べて展開します。

例題:問題

ある企業の店舗Aの1日の売上を確率変数 X、店舗Bの1日の売上を確率変数 Y とします。これまでのデータから、それぞれの期待値と分散は以下の通りでした。
・店舗Aの売上: E[X] = 50 万円, V[X] = 16
・店舗Bの売上: E[Y] = 40 万円, V[Y] = 9
2つの店舗の売上が互いに独立であると仮定するとき、2店舗の「売上の差(X - Y)」における期待値と分散を求めてください。

例題:解答・解説

売上の差 X - Y について、期待値と分散の公式をそれぞれ適用します。

1. 売上の差の期待値を求める
期待値は定義通りに引き算を行います。

E[X - Y] = E[X] - E[Y]

= 50 - 40 = 10 \text{ 万円}

2. 売上の差の分散を求める
2つの変数が独立であるため、差の分散であっても元の分散を足し算します。

V[X - Y] = V[X] + V[Y]

= 16 + 9 = 25

したがって、売上の差の期待値は 10万円、分散は 25 となります。

練習問題

問題

互いに独立な2つの確率変数 XY があり、それぞれの期待値と分散が以下のように与えられています。
E[X] = 10, V[X] = 4
E[Y] = 6, V[Y] = 2
このとき、新しく定義された確率変数 Z = 2X - 3Y の期待値 E[Z] と分散 V[Z] の組み合わせとして正しいものを1つ選んでください。

E[Z] = 2, V[Z] = 2
E[Z] = 2, V[Z] = 34
E[Z] = 38, V[Z] = -10
E[Z] = 38, V[Z] = 34

解答・解説

正解:②

解説:
期待値の線形性と、分散の定数倍の性質(V[aX] = a^2 V[X])を組み合わせて計算を行います。

1. 期待値 E[Z] の計算
期待値はそのまま分配して計算が可能です。

E[Z] = E[2X - 3Y]

= 2E[X] - 3E[Y]

与えられた期待値を代入します。

= 2(10) - 3(6)

= 20 - 18 = 2

2. 分散 V[Z] の計算
XY は独立であるため、それぞれの分散の和として展開します。このとき、係数は2乗になって外に出る点に注意が必要です。

V[Z] = V[2X - 3Y]

= V[2X] + V[-3Y]

= 2^2 V[X] + (-3)^2 V[Y]

= 4V[X] + 9V[Y]

与えられた分散を代入します。

= 4(4) + 9(2)

= 16 + 18 = 34

したがって、E[Z] = 2, V[Z] = 34 となり、正解は となります。

まとめ

今回は「確率変数の和と差」における期待値と分散の性質について解説しました。

  • 和と差の期待値は、確率変数が独立であるかに関わらず、常に E[X \pm Y] = E[X] \pm E[Y] が成り立ちます。
  • 和と差の分散は、確率変数が独立である場合、差 of 計算であっても V[X - Y] = V[X] + V[Y] のように足し算になります。
  • 係数がついた変換式(aX + bY)の分散では、係数を2乗した上で足し合わせる必要があります。

統計検定2級では、複数の確率変数を組み合わせた新しい変数の期待値や分散を算出させる問題が頻出します。特に「差の分散は足し算になる」というルールと「係数は2乗して外に出る」というルールが混ざった計算問題は得点差がつきやすいポイントですので、確実にマスターしておきましょう。

参考 関連用語

用語簡易的な説明
期待値の線形性確率変数を何倍かしたり足したりした際の期待値が、個別の期待値の組み合わせで計算できる性質です。常に成り立ちます。
独立2つの確率変数が互いに全く影響を与え合わない関係を指します。分散の和の公式が成り立つための前提条件です。
共分散2つの確率変数の連動性の強さを表す指標です。独立ではない場合の分散 V[X \pm Y] = V[X] + V[Y] \pm 2\mathrm{Cov}(X,Y) の計算に用いられます。
確率変数の和の分布独立な正規分布に従う確率変数の和が、再び正規分布に従うという性質(再生性)など、分布そのものの変化を指すこともあります。

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